はじめに
2026年に成立した「社会福祉法等の一部を改正する法律」。このコラムではWELFARE-001からWELFARE-018まで、改正された制度や新しい仕組みを一つひとつ見てきました。
では、それらを私たちの暮らしから見たとき、何が変わろうとしているのでしょうか。
困ったとき、どこに相談すればいいのか。家族や親族を頼ることが難しいとき、誰が暮らしを支えるのか。そして、支援が必要になったときにも、自分の意思や希望をどう大切にしていくのか。
今回はこれまでの記事をつなぎながら、2026年の社会福祉法等改正が私たちの暮らしにどう関わるのかを、【前編】として分かりやすく整理します。
1.これまで見てきた2026年の改正を、もう一度「暮らし」から考えてみます
このコラムではこれまで、WELFARE-001からWELFARE-018まで、2026年の社会福祉法等の改正について、一つひとつ取り上げてきました。
最初に改正全体を紹介したあと、小さな市町村での相談支援、頼れる身寄りがいない人への支援、権利擁護、有料老人ホーム、人口が減る地域の介護サービス、福祉を担う人材、ケアマネジャー、社会福祉連携推進法人、そして災害時の福祉支援まで、さまざまな制度や仕組みを見てきました。
一つずつ詳しく見ていくと、それぞれに目的があり、仕組みも異なります。
けれども、18本の記事を通して見てきた今だからこそ、もう一度考えてみたいことがあります。
これらの改正は、私たちの暮らしから見ると、どのようにつながっているのでしょうか。
2026年に成立した「社会福祉法等の一部を改正する法律」は、社会福祉法だけを改正したものではありません。介護保険法や老人福祉法など、福祉や介護に関係する複数の法律を一体的に見直すものです。改正には、小規模市町村の相談支援、人口減少地域の介護サービス、頼れる身寄りがいない高齢者等への支援、権利擁護、福祉人材、ケアマネジャー、社会福祉連携推進法人、DWATなど、幅広い内容が含まれています。
そのため、一つひとつの制度だけを見ていると、「結局、今回の改正で何が変わろうとしているの?」という全体像が、少し見えにくいところがあります。
そこで、この【前編】では、これまで詳しく見てきた制度を、もう一度「暮らす人の側」からつないでみます。
高齢になったとき。
介護や生活の支援が必要になったとき。
家族や親族を頼ることが難しいとき。
そして、いくつもの困りごとが重なったとき。
そのとき、私たちはどこに相談し、誰に支えてもらい、自分らしい暮らしをどう守っていくのでしょうか。
これまでの記事では、それぞれの制度について詳しく見てきました。
ここからは、それらをもう一度つなぎながら、なぜ、いま福祉の仕組みを変える必要があるのか。そして、今回の改正によって、私たちの暮らしを支える仕組みは、どのように変わろうとしているのか。
難しい法律の言葉からではなく、私たちの暮らしから考えてみたいと思います。
2.18本の記事を通して見えてきた、福祉を取り巻く変化
WELFARE-001からWELFARE-018まで、一つひとつの制度を見てきました。
扱ってきたテーマはさまざまですが、振り返ってみると、その背景には、いくつかの共通した社会の変化があります。
その一つが、人口減少と高齢化です。
高齢になり、介護や生活の支援を必要とする人がいる一方で、地域によっては人口そのものが減り、介護や福祉を担う人材を確保することも難しくなっています。
これまでの記事でも、人口が減る地域で介護サービスをどう維持していくのか、福祉を担う人を地域でどう確保するのか、そしてケアマネジャーをはじめとする専門職をどう支えていくのかについて見てきました。
今回の改正にも、こうした人口構造の変化のなかで、必要な福祉や介護のサービスを地域でどう支え続けていくのかという課題が流れています。
そして、もう一つ見逃せないのが、単身世帯の増加と、家族を取り巻く環境の変化です。
一人で暮らす人が増え、なかでも高齢者の単身世帯は、今後さらに増えていくことが見込まれています。
こうした変化は、単に「一人暮らしの人が増える」ということだけを意味するものではありません。
これまで家族が担うことを前提としてきた支え方だけでは、暮らしを支えることが難しい人が、これからさらに増えていくということでもあります。
病気になったとき、介護が必要になったとき、入院や施設への入所が必要になったとき。日々のお金の管理やさまざまな手続が難しくなったとき。そして、亡くなった後の手続を誰かに託さなければならないとき。
これまで、こうした場面では、家族や親族がさまざまな役割を担ってきました。
しかし、家族や親族が身近にいて、必要なことを担ってくれるとは限りません。家族や親族がいても、遠くに住んでいたり、それぞれに仕事や生活があったり、関係性やさまざまな事情によって頼ることが難しかったりする場合もあります。
だからこそ、「家族が支えること」だけを前提とするのではなく、地域や制度によって暮らしをどう支えていくのかが、これまで以上に大きな課題になっています。
実際、今回の改正では、頼れる身寄りがいない高齢者等について、日常生活の支援だけでなく、入院・入所の手続や死後の事務など、これまで家族や親族が担ってきた生活上の課題に対応する仕組みが拡充されます。
そして、変わっているのは、世帯や家族のあり方だけではありません。
暮らしのなかで起こる困りごとは、一つの制度だけでは解決できないことがあります。
介護が必要になり、同時にお金のことにも不安がある。住まいにも問題がある。家族との関係にも悩んでいる。自分だけでは手続をしたり、物事を判断したりすることが難しくなってきた。
実際の暮らしでは、このように、いくつもの問題が重なることがあります。一方で、福祉の制度は、介護、障害、生活困窮、こども・子育てなど、それぞれの分野に分かれています。
そのため、困っている本人からすれば、「自分は、いったいどこへ相談すればいいの?」ということ自体が、大きな問題になることがあります。
こうして18本の記事を振り返ってみると、それぞれ別々に見えていた改正の背景が、少しずつつながってきます。
人口が減っても、必要な福祉をどう支え続けるのか。
家族だけでは支えられないことを、地域や社会でどう支えていくのか。
いくつもの困りごとを抱えた人を、必要な支援へどうつないでいくのか。
今回の改正には、こうした共通する課題があります。
では、そのなかで、私たちが実際に困ったときの支援は、どのように変わろうとしているのでしょうか。
次は、「困ったとき、どこに相談すればいいの?」という、暮らしに最も身近なところから見ていきます。
3.「どこに相談したらいいの?」を減らす
暮らしのなかで困ったことが起きたとき、私たちはまず、誰かに相談しようとします。
けれども、実際の困りごとは、必ずしも一つの分野にきれいに分けられるものではありません。
親の介護が必要になったけれど、自分自身の生活にも余裕がない。高齢になり、一人での生活に不安を感じるようになったけれど、介護だけでなく、住まいやお金のことにも心配がある。
こうしたとき、相談する人が最初から、「これは介護の問題です」「これは生活困窮の問題です」「これは障害福祉の問題です」と、自分の困りごとを制度ごとに整理できるとは限りません。
むしろ必要なのは、まず困っていることを受け止めてもらい、そこから必要な支援につないでもらえることです。
これまでの記事でも見てきたように、今回の改正では、人口減少や高齢化が進む小規模な市町村を対象に、介護、障害、こども、生活困窮といった分野の相談支援や地域づくりを、分野横断的に行える新しい仕組みが設けられます。
専門的な対応が必要な場合には、都道府県などが市町村を支援する仕組みも設けられます。こうした見直しは、地域の実情に応じた包括的な支援体制を拡充する取組の一つです。
ここで大切なのは、単に「新しい相談窓口が一つ増える」ということではありません。
困っている人が、自分で制度を調べ、自分の問題がどの分野に当てはまるのかを判断し、それぞれの窓口を探し回らなければ支援にたどり着けない。そんな状況を少しでも減らしていくこと。
そして、支援する側が分野を越えてつながり、その人が抱えている困りごとを受け止め、必要な支援へつないでいくこと。今回の見直しは、そうした地域の支援体制をさらに整えていくものです。
ただし、相談先が見つかれば、それですべてが解決するわけではありません。相談したあと、実際の暮らしを誰が支えるのかという問題が残ります。
とりわけ、家族や親族を頼ることが難しい人にとっては、相談できる場所があっても、その先の日常生活や入院・入所の手続などを支えてくれる人がいなければ、困りごとは解決しません。
次は、これまでの記事でも大きなテーマとして取り上げてきた、「家族に頼れないとき、誰が暮らしを支えるのか」について、改めてつなげて考えてみます。
4.家族に頼れないとき、誰が暮らしを支えるの?
第2章で見たように、単身世帯が増え、家族を取り巻く環境も変化しています。
けれども、私たちの暮らしのなかには、今でも家族や親族がさまざまな役割を担っている場面が少なくありません。
たとえば、日々のお金の管理や手続が難しくなったとき。入院や施設への入所が必要になったとき。緊急時の連絡先を求められたとき。そして、亡くなった後の葬儀や納骨、家財の処分などが必要になったとき。
これまで、こうしたことの多くを家族や親族が担ってきました。
では、頼れる家族や親族がいない場合は、誰が支えるのでしょうか。
ここで大切なのは、単に「身寄りがあるか、ないか」だけで考えないことです。
家族や親族がいても、遠く離れて暮らしていることがあります。関係が途絶えていることもあります。家族自身が高齢だったり、病気や障害があったり、それぞれの生活上の事情から支援を担うことが難しかったりする場合もあります。
そのため今回の改正では、「頼れる身寄りがいない高齢者等」への支援が重要なテーマの一つになっています。単身世帯等が増加するなか、これまで家族や親族が担ってきた日常生活上の支援や入院・入所の手続、死後の事務などを誰が担うのかという課題への対応が進められます。
これまで家族が担ってきたことを、社会の支援へ
これまでの記事で詳しく見てきたように、今回の改正では、頼れる身寄りがいない高齢者等に対して、日常生活の支援、入院・入所等の手続の支援、死後事務の支援などを行う事業が、一定の要件のもとで第二種社会福祉事業に位置づけられます。
また、こうした人たちからの相談を既存の相談支援の仕組みで受け止め、必要な支援につなげていくための体制も整えられます。
ここでは、制度の詳しい仕組みをもう一度繰り返すのではなく、暮らす人の側から何が変わろうとしているのかを考えてみましょう。
大切なのは、家族の代わりになる誰かを一人見つければよい、ということではありません。
これまで家族や親族に委ねられることの多かった生活上の支援を、家族の有無だけに左右されることなく、地域や社会のなかでどう支えていくのか。
そこに、今回の見直しの大きな意味があります。
そして、必要なのは一つのサービスだけではありません。
困ったときに相談できること。
必要な支援につながること。
そして、実際の暮らしを支えてもらえること。
こうした支援を地域のなかでどうつないでいくのかが問われています。
さらに、家族に頼ることが難しい場合には、もう一つ大切な問題があります。それが、「自分のことを、自分で決めることをどう支えるのか」ということです。
支援が必要になったとしても、その人が何を望み、どのように暮らしたいのかという思いまで失われるわけではありません。
次は、これまで権利擁護の記事でも見てきた、本人の意思や権利をどう守りながら支えていくのかについて、改めてつなげて考えてみます。
5.「自分で決めること」を、どう支えるの?
年齢を重ねたり、認知症や障害などによって判断することに難しさが生じたりすると、契約や財産管理、福祉サービスの利用などで、誰かの支援が必要になることがあります。
けれども、支援が必要になることと、その人の希望や思いを置き去りにしてよいことは、まったく別の話です。
どこで暮らしたいのか。どのような支援を受けたいのか。これから、どのような生活を送りたいのか。
本人だけで決めることが難しい場合にも、できる限り本人の意思や希望を確かめ、その人自身の選択につながるよう支えていくことが大切です。
今回の改正では、社会福祉事業の経営者などが福祉サービスを提供する際に、利用者の意思決定の支援に配慮することが法律上明記されました。これは今回の改正における権利擁護の重要な見直しの一つです。
成年後見制度だけではなく、地域で権利を守る
これまでの記事では、成年後見制度についても見てきました。
判断能力が十分ではない人の財産や権利を守るために、成年後見制度は重要な仕組みの一つです。しかし、必要な支援の内容や程度は、一人ひとり異なります。
今回の改正では、判断能力が不十分な人が、成年後見制度だけでなく、地域にあるさまざまな権利擁護の仕組みを適切に利用できるよう、相談や関係機関の連携体制を整備することが、市町村の努力義務とされました。
また、その相談支援を担う機関として、「地域権利擁護相談支援センター」が法律上位置づけられます。こうした見直しによって、本人の状況に応じた権利擁護支援につなげる地域の体制を整えていくこととされています。
ここで大切なのは、単に新しい相談先ができるということではありません。
本人の意思や希望をできる限り大切にしながら、その人に必要な支援につなげていくこと。
そして、権利を守るための支援を成年後見制度だけで考えるのではなく、地域にあるさまざまな支援や関係者をつなぎながら、その人の暮らしを支えていくことです。
第3章では、困ったときに相談できることを見てきました。第4章では、家族だけに頼らず、暮らしを支えることを見てきました。そしてこの章では、支援を受けるようになっても、本人の意思や権利を大切にすることを見てきました。
こうしてつなげてみると、それぞれ別々に見える仕組みが、一人の人の暮らしのなかでつながっていることが分かります。
相談できる。必要な支援につながる。そして、支援を受ける人自身の思いや選択も大切にされる。
では、ここまで見てきたことをまとめると、2026年の社会福祉法等改正によって、私たちの暮らしを支える仕組みは、どのように変わろうとしているのでしょうか。
次の章で、【前編】のまとめとして整理します。
6.今回の改正で見えてくる、大きな変化
ここまで見てきたことを振り返ると、2026年の社会福祉法等改正には、一つの大きな流れが見えてきます。
それは、制度ごとに支援を考えるだけではなく、その人の暮らし全体を見ながら、必要な支援をつないでいく方向が、さらに強められていることです。
困りごとがいくつも重なっているときには、まず相談を受け止め、必要な支援につないでいく。
家族や親族を頼ることが難しいときには、これまで家族が担うことの多かった生活上の支援を、地域や社会のなかでどう支えていくのかを考える。
そして、支援が必要になったときにも、本人の意思や希望をできる限り大切にしながら、その人に必要な支援につなげていく。
第3章から第5章までで見てきた仕組みは、それぞれ異なるものですが、暮らす人の側から見ると、一人の人の生活のなかでつながっています。
もちろん、法律が改正されたからといって、すぐに全国どこでも同じように十分な支援を受けられるようになるわけではありません。
今回の改正には、地域の実情に応じて取り組むものや、市町村による体制整備を進めていくものも含まれています。
これから、それぞれの地域で実際にどのような支援体制がつくられ、私たちが必要なときにどのような支援を利用できるようになるのかを見ていくことも大切です。
それでも、WELFARE-001からここまで見てきた内容をつなげてみると、今回の改正が向き合おうとしている課題が見えてきます。
困ったときに、どこへ相談すればよいのか。
家族や親族を頼ることが難しいとき、誰が暮らしを支えるのか。
支援が必要になっても、本人の意思や権利をどう大切にしていくのか。
こうした問題を、本人や家族だけに委ねるのではなく、地域や社会のなかでどう受け止め、必要な支援につないでいくのか。
それが、この【前編】で見てきた大きなテーマです。
ただし、相談できる仕組みが整っても、実際に介護や福祉のサービスを提供する人や事業所が地域になければ、暮らしを支えることはできません。
人口が減る地域で、介護サービスをどう維持していくのか。福祉を担う人を、どう確保し、働き続けてもらうのか。ケアマネジャーをはじめとする専門職を、どう支えていくのか。そして、高齢者の住まいや介護サービスの質を、どう守っていくのか。
これらもまた、これまでWELFARE-001からWELFARE-018までの記事で見てきた、2026年改正の重要なテーマです。
次の【中編】では、「必要な介護・福祉サービスを、これからも受け続けられるのか」という視点から、これまでの記事をもう一度つないでいきます。
参考資料・情報について
この記事は、2026年9月時点の制度と、厚生労働省が公表している2026年の社会福祉法等の改正に関する資料をもとに作成しています。
厚生労働省「社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要」
厚生労働省「社会福祉法等の一部を改正する法律(令和8年法律第51号)の概要②」
厚生労働省「地域における権利擁護の支援体制に係るワーキング・グループ」
この記事は2026年9月時点の情報です。
2026年の法改正には、今後、施行に向けて具体的な運用が示されるものが含まれています。実際の制度や支援を確認するときは、厚生労働省や都道府県、市区町村などが公表する最新情報をご確認ください。
本記事の作成にあたっては、資料の整理、構成の検討、文章表現の補助などに生成AIを利用しています。
ただし、制度改正に関する記載については、厚生労働省の公表資料等を確認しながら作成しています。
更新履歴
2026年9月22日 公開